バブルの頃、私は大学生だった。
華やかな世の中の雰囲気とは別世界の六畳一間の貸間に住んでいた。
キッチンやトイレは共同。銭湯通いの毎日。唯一の贅沢は、ファッション雑誌を読むことだった。
組まれていたクリスマス特集は特にきらめいて見えた。
いつしか、お洒落をしてレストランでイタリアンを食べ、クリスマスプレゼントに彼からリングをもらう、というのが憧れになっていた。
願いが叶ったのは、社会人になって2年目のクリスマス。
初めてできた彼に、クリスマスプレゼントをおねだりした。
それまで避けていたデパートのアクセサリー売り場。
買ったばかりのコートを着て、ハイヒールを履いて、近寄れなかったショーケースを彼と覗き込んだ。
選んだのは、ハート型のキュービックジルコニアのシルバーリング。
お値段は14000円だった。
デザインがかわいかったのと、彼のお財布に気を使ったのが理由だ。
若いうちだけ、などと思っていたが、結局彼にもらったリングは結婚指輪の他はこれだけ。
50歳の今もつけている。
社会人25年目を過ぎ、住宅ローンも終わった今なら、もう少し気を遣わずにおねだりできそうなものだが、意外とこのリング以上のものに出会えない。
10年後も20年後もつけている気がする。
いや、息子の彼女にプレゼントして、新しいのを買ってもらおうか。
薬指を見るたび、来るか来ないかわからない未来に思いをめぐらしている。
コメント