こんにちは。たけのこです。
以前,エッセイコンテストに応募したときのデータがパソコンにありました。
50代になったばかりの頃に書いたものです。
ハスコチャンネルのお気に入り,角島大橋のドライブ動画を見ていると,時々思い出します。
同じ研究室の同級生に誘われたデートは、ドライブだった。
海が近づき、車の窓を開ける。彼が言った。
「潮の香りがしてきたね。」
「そうだね。」
青い空。白い雲。木々の緑。心地よい風。
まだ海は見えない。あの坂を登りきれば水平線が見えるだろうか。期待とともに、会話が弾む。
睫毛が長い。横顔をじっくりと見るのは初めてだ。
「これってさ、潮の香りなんだよな。」
「どういうこと?」
「高校の頃付き合ってた子がさ、海のにおいって言ったんだよ。その言い方が幻滅でね。これは潮の香りなんだよ。そう思わない?」
「そうだね。確かに潮の香りの方がいいね。」
私は彼の横顔から視線を外し、窓の外を見た。
「その彼女とはどうなったの?」
「なんか違う気がして別れた。若かったからね。」
なぜ昔の彼女の話なんかするんだろう。私が海のにおいと言い出すのを止めたかったのだろうか。
下り坂の先に水平線が見えた。真っ青な夏の海だ。「潮の香り」が強くなった気がする。
さっきまで私は「海の匂い」を感じていた。口に出さなかったのは偶然だ。
「海のにおい」が幻滅するほどひどい言い方だとは思わない。
彼と私は、価値観が合わないのかもしれない。
彼と再びデートをすることはなかった。
今も海を訪れると思う。確かに「潮の香り」だ。
あの話だけで彼とは合わないと感じたのは、私が若かっただけかもしれない。
もしあの時、あんな話にならなければ、今頃隣で運転しているのは彼だったかもしれない。
主人の横顔を見ながら、今年もまた思い出した。
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