電車の中で、
少し離れた席に座っていた人が、
うつむいたまま動かなかった。
眠っているのか、
それともただ目を閉じているだけなのか、
よくわからなかった。
誰も声をかけない。
ちらっと見る人はいるけど、
すぐにスマホに戻る。
「大丈夫ですか?」
その一言は、
思っているよりも遠い。
たぶんみんな、気づいている。
でも同時に、気づいていないことにしている。
関わると面倒かもしれないし、
間違っていたら恥ずかしいし、
自分じゃなくてもいい気がするから。
職場でも、似たようなことがある。
明らかに余裕がなさそうな人。
何度も同じミスをしている人。
声をかければ、少しは変わるかもしれないのに。
でも、言わない。
「自分の仕事じゃないから」
「本人が言わないから」
「前にも言ったし」
理由はいくらでも出てくる。
気づいているのに、
見えていないふりをするのは、
たぶんすごく簡単だ。
そして、すごく安全だ。
でも、ふと思う。
もしあのとき、
誰かが一言かけていたら。
もしあのとき、
自分が少しだけ踏み出していたら。
何か、変わっていたのだろうか。
正解はわからない。
でも、何もしていないことだけは、
はっきりと残る。
見えているのに、見えていないふり。
それは、優しさじゃない。
でも、悪意とも言い切れない。
だからこそ、
少しだけ厄介だ。
今日もまた、どこかで、
誰かが気づいている。
そして、
静かに目をそらしている。





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